トランペット名手ウイントン・マルサリスの練習方法の記事より。!HIROKI FUJII(フジイヒロキ/藤井 裕樹)FBより引用

 




少年時代、ニューオリンズで育った私は、ピアニストである父のエリスと彼の友達が、『sheddin’』について話していたのを覚えています。彼らは集まって「君は『shed』に行く必要がある」、「私は熱心に『sheddin’』していた」などと話していました。私が11歳位の時、『sheddin’』は『woodshed』に行く事を意味していて、それが『練習』のことだと気付いたのです。16歳までに、私は『shed』が本当は何であるか、そしてそれが熱心で集中力のいる『練習』である事を理解しました。私が兄のブランフォードとハイスクールバンドのオーディションを受けた時、インストラクターは父のエリスを知っていたので、エリスの息子たちがバンドに来ることに興奮していました。しかし、オーディションの結果は情けないもので、彼は「お前は本当にエリスの息子なのか?」と私に言ったのです。

※訳者注「Shed」は小屋のような意味。この文では「sheddin’」や「woodshed」もほぼ同じ意味を表していますが、「woodshed」(木の小屋)はアメリカのスラング(俗語)で「演奏の練習をする」という意味があり、ウイントンは、後にこれが「小屋」ではなく、「練習」の話だと気付いたのだと思います。小屋は自宅と違って何も物がなく、人もいません。恐らくそういう場所に行って集中して練習するというような状況から生まれた言葉ではないでしょうか。昔の日本に置き換えると、山にこもって修行をするというような発想かも知れませんね。


その時の彼のコメントで落ち込むことはありませんでした。なぜなら私はバンドよりもバスケットボールに興味があったからです。しかしながら、次の数年の間、私は真面目に練習し始めました。練習は音楽やそれ以外のことを学ぶためには欠かせません。私は、練習することに費やされる時間が、音楽家の能力を示す本当の指針だと考えています。練習をすることは、あなたが良い音を出すために犠牲を払う覚悟があるかを意味します。


例え練習がとても重要だと分かっていても、子ども達にとっては気が散る要素がたくさんあり、非常に難しいと言えるでしょう。そのため、私はいつも彼らを勇気付け、どうやって練習するかを説明しています。そして私は「ウイントンの、練習のための12の方法」を開発しました。これらは音楽、勉強、スポーツなど、ほとんど全ての行動にも当てはまります。


「ウイントンの、練習のための12の方法」:音楽から勉強まで


(1996年9月、教育ダイジェストの中で発表)


1. 指導者を探すこと:あなたが何をすべきか熟知している経験豊かな先生を見付けて下さい。良い先生は、あなたが練習する目的を理解するのを助け、より簡単で有効な方法を教えてくれます。


2. スケジュールを書き出すこと:スケジュール(タイムテーブル)はあなたの時間を計画的にする助けをします。あとで練習する複雑な曲の基盤になるものなので、その前に基礎練習をする時間を必ず設けて下さい。例えばもしあなたがバスケットボールの練習をするとしたら、スケジュールの中に必ずフリースローを入れるでしょう。

3. 目標を設定すること:スケジュールと同じく、目標はあなたの時間の管理や、上達の度合いを管理することを助けます。また、目標は特定の期間何かの努力をすることにおいて、挑戦を意味します。しかし、特定の行いが本当に難しいのであれば、目標はリラックスした設定にしましょう。練習は、結果を成し遂げるために痛みをともなうまで突き詰めてはいけません。


4. 集中すること:あなたは、ため息をついたり、うめき声をあげたりする前に、あと10分は集中して練習することが出来ます。これは、ゲームやテレビ、ラジオなどの誘惑に負けず、さらに練習を続けることを意味します。最初は数分集中することから始め、徐々により長い時間に増やして下さい。特に若者においては、集中するという努力もまた練習です。


5. リラックスすることと、ゆっくり練習すること:急ぐ(焦る)ことなく、あなたの時間を練習に費やして下さい。あなたがスケールやかけ算の九九、スペイン語の動詞の時制などの新しい何かを学ぼうと試みた時と同じように、ゆっくりから始め、徐々にスピードを上げていく必要があります。


6. より長く厳しい練習をすること:あなたの不十分な部分に直面することを恐れてはいけません。練習には出来ない所に多くの時間をかけましょう。あなたのスケジュールは、あなたの強みと弱みを反映するように調整して下さい。簡単に出来る所に時間をかけてはいけません。成功した練習(良い練習)とは、あなたが自分の欠点と直面していることを意味します。落胆することなくそれと向き合えれば、結果あなたは上達することが出来ます。


7. 練習に表情を持たせること:あなたは毎日「あなた自身」と向き合って生きています。どんなにつまらない、些細なことであっても、自分の全てをつぎ込み、最善を尽くして下さい。それによって、あなたがどうしたいか、何をしたいかを表現しましょう。


8. ミスから学ぶこと:私たちの誰もが完璧ではありません。ですから、あなた自身に厳しくなり過ぎないで下さい。もしもあなたが(アメリカンフットボールで)タッチダウンを奪われたり、(野球で)三振を取られてゲームが終わってしまったとしても、それが世界の終わりを意味する訳ではありませんよね。ゆっくりと立ち上がり、何がうまくいかなかったのかを分析し、そして練習を続けて下さい。ほとんどの人はチームやグループの一員として音楽をやっていると思います。もしもあなたがチーム全体への貢献のために努力、集中することが出来れば、あなたの個人的ミスはそんなに大変なことではないと想像できます。


9. 見せびらかさないこと:何か特技があると、人はそれを自慢したくなるものです。高校生の時、私は呼吸のテクニックを学び、トランペットのソロで10分間ブレスをすることなく演奏することが出来ましたが、父は私に「そういうテクニックはお客さんに喜んでもらうために使いなさい」と言いました。あなたがこのような(見せびらかすような)演奏をした場合、それはあなた自身やお客さんをだましていることになります。


10. 自分自身で考えること:成功も失敗も、問題を解決することは、最終的にはあなた自身の能力によるものです。ロボットになってはいけません。走り高跳びで背面跳びを生み出したディック・フォスベリーを例に挙げてみましょう。それまでは誰もがバーに駆け寄り身体の前方から跳び越えていたのですが、フォスベリーは、背面から跳ぶことでそれよりも高く跳ぶことを開発しました。自分自身で考えることは、あなた自身の判断力を高める助けになります。あなたは時々間違った判断をすることもあり、何かを無駄にするかも知れません。しかし、正しい判断が出来たとき、あなたはより成長することが出来ます。


11. 楽観的になること:あなた自身の世界観をあなたがどう感じるか(受け止めるか)。あなたが楽天的になれれば、物事はすでに素晴らしいか、今後素晴らしいものになっていきます。ミスを乗り越え、より成長することを楽観主義は助けてくれます。ポジティブな姿勢は、あなたの身の回りで起きることが常に素晴らしいと感じさせてくれることができ、結果忍耐力をももたらしてくれます。


12. つながりを見付けること:あなたが何を練習したとしても、それらは(一見音楽とは関係のない)他の何かともつながっています。言語を学んだり、美味しい料理を作ったり、人とうまくやっていくことも練習が必要ですよね。それらの上達のための訓練を(音楽とのつながりを見付けることに)発展させられるなら、その訓練はあなたが他に何かする(音楽をする)時にも役立ちます。そのつながりを理解することはとても重要です。最初は違うと感じることでも、お互いの関係を発見することで、あなたの世界はより大きくなります。言い換えると、『woodshed』(練習)は大きな可能性の世界を開くことが出来ます。









いかがでしたでしょうか?

この12項目の中で、一番に「良い指導者を探すこと」に触れているのはとても印象的です。日本の管楽器の場合、まず最初に出会うのが部活の顧問の先生というケースも少なくないでしょう。その方がたまたま管楽器出身の先生ならまだ良いですが、全く知識のない先生の場合も多く見受けられます。それと同じく、先輩たちが最初の指導者となってしまい、間違った伝統が延々と繰り返されているケースもあります。僕の場合、中学の先生はとても熱心に勉強されている方で、管楽器出身の方ではありませんでしたが、ワールドクラスの奏者を呼んでレッスンして下さっていたので、とてもラッキーだったと思います。

とはいえ、それは今から20年以上も前の話で、今僕が勉強しているような身体の使い方や、脳科学、心理学の応用などは取り入れられていなかったので、やはり無理な奏法をしていました。そのつけが今になってまわって来ています。そういった苦労が少ない方が、将来もっと優秀なプレイヤーが育つことにつながると思うので、ご自身で指導しきれない場合は、どうか子ども達のために、きちんとした指導者を呼んでいただきたいと思います。

次に、「集中」と「リラックス」、「厳しい練習」と「楽観的」。正に「緊張」と「緩和」ですね!何事もこのバランスが重要で、どちらに偏っても良くありません。文章にするのは難しくありませんが、実践するのはとても難しいと思います。そのためにも、「目標」の設定や「スケジュール管理」が大切だとも言えるでしょう。

「自分自身で考えること」、これも日本の教育では欠けている部分かも知れません。カリキュラムにのっとり、教師が一方的に生徒へ教えるのが日本の教育で、正解を一つに限定する傾向があります。「この問題の答えが分かる人?」と手を挙げさせ、その答えはすでに一つしかありません。欧米では、「この問題についてどう思う?」という質問の仕方で、それに対して思うことを答えられれば全て正解です。これによって自分自身で考え、自分から意見を述べる習慣が付きます。

また、欧米のプレイヤーのプロフィールを見ると、I learned from Wynton Marsalis.(私はウイントンから学びました)ではなく、I learned with Wynton Marsalis.(私はウイントンと共に学びました)のように書かれていて、僕はこの表現がとても好きです。教育が一方通行でないこと、お互いが学び合う、対等な関係であることが、この「with」に象徴されている気がするのです。やはりこういう教育の中から個性のある人材が生まれてくるのではないでしょうか?

「練習に表情を持たせること」。この記事は一応子ども向けでもあると思いますが、その中でもすでに自分の人生観と結び付けるような「音楽表現」に触れている点、これも日本と大きく違うところかも知れません。「コンクールに勝つため」や「統率のための教育のツール」として利用されてしまっている音楽とはまるで違いますね。「音楽」はあくまで「音楽」、「芸術」であり、「人生」であると思います。

「つながりを見付けること」。これも素晴らしいですね!日本には「能ある鷹は爪を隠す」ということわざがあるくらいで、その中でも特に音楽家は自分の手の内を見せたがらない気がします。テレビなどを観ていても、音楽家に関する情報はかなり少ないと言えますが、松井選手やイチロー選手、本田選手や長友選手のようなアスリートを取り上げた番組や、社長さんなどが出演するビジネス番組は数多くあり、そこから学び、音楽に置き換えることは十分に可能だと思うのです。僕は自分の中でこれを「変換力」と呼んでいて、この能力はとても大切だと認識しています。一見関係ないように思うことが、実はとても「効率の良い練習、上達へのヒント」だということですね!

優れた演奏家であり、指導者でもある方がこのような記事を書いて下さっているのはとても有り難いです。僕自身、改めて勉強になった部分がたくさんあり、実践していきたいと思っています!!

 

HIROKI FUJII(フジイヒロキ/藤井 裕樹)氏のFBより引用
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